2022/02/07


新年快樂!
第5波の襲来で香港内の文化施設は全てクローズしてしまいましたが、昨年末、わたしはここ香港で、生まれて初めてのバレエ鑑賞を経験しました。小学生の頃、友人から借りて読んだクラシック・バレエの少女漫画。華やかな舞台、厳しい練習、配役争い(ときどき恋愛)。身体が堅くショートヘア、習い事はピアノとスイミングと塾というわたしにとって、バレエは漫画の中だけの憧れの世界。膝小僧に傷の絶えない男児2人の母となった今となっては、バレエは日常生活からさらに程遠い芸術世界の中でのお話に過ぎませんでした。

ある日のこと。わたしは香港で姉と慕う知人に声を掛けてもらいました。「くるみ割り人形の公演本番前日のドレスリハーサル。仲良しのダンサーが席をおさえてくださっているのだけど、ファミリーでいかが?」香港、冬の風物詩ともいわれる香港バレエ団のクリスマス公演『Nutcracker』。素敵なチャンス!バレエ、絶対に観に行きたい!夫との作戦会議の結果、席に2時間座っているのは難しいと思われる4歳の次男は家でヘルパーさんと留守番をしてもらうことに。仕事帰りの夫とは現地集合することにして、わたしは7歳の長男と3人、リハーサル公演に伺わせていただくことになりました。

『Nutcracker』の物語は持っていた絵本で予習済み。MTR尖沙咀駅に到着した瞬間からワクワクの長男。

公演会場は「香港文化中心」。中に入るのも初めての経験です。映画やドラマに見るタキシードとドレス姿の優雅なバレエ鑑賞スタイルを勝手に思い描いていたわたしは、カジュアルな恰好の方も多い会場のラフな雰囲気に少しほっとしながら、赤い絨毯に歩を進めました。今日はリハーサルのためチケットはなく、スタッフの方の誘導で案内された2階席、どこでも自由に着席することができました。重厚な雰囲気の舞台セット。孫文記念館(孫中山紀念館)をイメージした黄金の館の右側には「71年ぶりに鳴る鐘(https://hongkonglei.com/watashinokirari10/)なんだって」とついさっき長男と見上げた時計台(鐘楼)が鎮座していて、わたしは夢中でシャッターをきりました。

会場の「大劇院」は1,734の座席数を数えるそう。

『Nutcracker』。簡単にあらすじを紹介しておくと、主人公のクララはクリスマスの日。くるみ割り人形をプレゼントにもらいます。夜中起き上がると、人形たちと同じ大きさまで身体が小さくなっていたクララ。邪悪なネズミの王様の軍隊に立ち向かうべく、くるみ割り人形たちと力を合わせて果敢に戦って勝利をおさめ、呪いの解けたくるみ割り人形は王子様の姿へと戻ることができ、御礼に魔法の国の旅へといざなってくれた―、そんなお話です。

今期の香港バレエ団の『Nutcracker』は芸術監督を務めるセプタイム・ウェブレ(Septime Webre)氏(2017年7月就任)の新たな振り付けによるワールドプレミア。招待くださったダンサーの高野陽年さんはロシア国立ワガノワ・バレエ・アカデミーを日本人で初めて主席卒業された方で、「リハーサル当日は『孫文』と『孔雀』役だそうよ」と“姉”から教えてもらったのですが、『孫文』?『孔雀』?クラシック・バレエの『Nutcracker』と“香港”はわたしの中では未だ結びつかなくて、一体、当日はどんな世界観が繰り広げられるのか、期待に胸が高鳴りました。


オーケストラの音合わせの後、ついに幕開けた『Nutcracker』。オリエンタルな衣装に身を包んだ孫文をはじめとする20世紀初頭の歴史的人物たちがクララのクリスマス・パーティーの舞台に登場し、王子様との旅、ストーリーに合わせて展開する壮大なセットは、幽玄な竹林、海賊船の浮かぶビクトリア・ハーバーやビクトリア・ピーク、長洲島で開催される『饅頭祭(長洲太平清醮(Cheung Chau Bun Festival))』など。香港の象徴バウヒニアの花々や香港に生息する野生動物、150年以上の歴史を持つ香港の競馬と騎手、コミカルに擬人化された点心まで現れ、総勢300名以上、240もの色鮮やかなコスチュームに身を包んだプロのダンサーとバレエ教室の子どもたちの舞いに、観客席からは何度も拍手が起こりました。

「ハプニングありで、すごく楽しいと思う」ドレスリハーサルについて“姉”が予告してくれたとおり、ウェブレ監督が途中で舞台に出て来て「今のパート、もう一回やろう」とお花のダンサーに指示を出したり、昆虫の子どもたちに「表情!もっと笑うー!」と呼びかけたり。隣で興奮しているこれまたバレエ初鑑賞の夫と瞬きを忘れた息子同様、世界初演前日のドレスリハーサル、会場と一体となった舞台は最後までわたしたちを楽しませてくれました。

上演中は撮影が禁止されており、残念ながら思い出は目に焼き付けるしかなかったのですが、是非、こちらのページから、華やかな舞台『Nutcracker』と“香港”の融合を楽しんでいただけると幸いです。
https://hkballet.com/en/see-hkb/hkb-upclose-programme/the-nutcracker-backstory?fbclid=IwAR3NSg-GiEek0tZPkYG_oAOq3YkwfyO4nZz9x9btrz9ju_LQD2ZYbFb9X3k

香港バレエ団の歴史は、世界三大バレエ団のひとつ、ロイヤル・バレエ団も擁するイギリスの統治時代、1979年に遡ります。1981年の初演以降、『Nutcracker』はクリスマスの伝統としてこれまで40年もの間、香港の人々に親しまれ、30万人以上の観客を動員してきました。

「私たちは3年間、この作品に懸命に取り組んできました。『Nutcracker』は香港バレエ団が贈る香港へのクリスマスプレゼントなのです」公演後、香港バレエのことをもっと知りたくて閲覧した公式ホームページに謳われていたメッセージ。感染(第4波)の影響で予定されていた『Nutcracker』15公演が全て中止となった前年(2020年12月17日~27日)の苦難を乗り越えてのワールドプレミア。2021年の19公演については、スポンサー企業の投資に加えクラウドファンディングも実施されたそうです。

HK$500から寄付が可能。サポートの御礼にはサイン入りの写真やドレスリハーサルのチケット、講演会などが提供されたそう。(公式ウェブサイトより)

ワールドプレミアを無事終えた香港バレエ『Nutcracker』のこれからの物語。踊るものと、奏でるものと、創るものと、観るもの。どれが欠けても成立し得ないだろう芸術の世界。今回はご招待に甘えたけれど、2022年の公演からはわたしもクラウドファンディングを通じ、微力ながら香港バレエを支えたい。この先のさらにまた40年を見据えてサンタクロースの一員となり香港の芸術に、子どもたちの未来に、温かい灯を点し続けたい。香港にクリスマスプレゼントを届けたい。

そして、香港の歴史と文化と自然のモチーフが随所に散りばめられた『Nutcracker』は、息子たちが香港について調べてみようと思うきっかけになるような気がしていて、我が家のクリスマスホリデーシーズンの恒例行事に『Nutcracker』の鑑賞を加えたいと考えています。秋には5歳になる次男も、今年は一緒に連れていけるかな?感染の波が去り、2022年も関係の皆様の努力が公演という形で花開きますように。心想事成。萬事盛意。

Emi in HK。多謝收睇。下次見!


【参考】

HK Ballet 香港芭蕾舞團 公式ウェブサイトhttps://www.hkballet.com/en/


Emi
映像プロダクション会社勤務。大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援から政策立案時の省庁との折衝まで多岐にわたる業務に従事。
15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開したピアノ。インター校に通う7歳、4歳、男児2人の母。

Twitter   @emi_m_wang
E-mail  emiinhkg@gmail.com

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