2022/08/08

你呢排點啊? 農曆7月7日の七夕(新暦で今年は8月4日)。香港はシグナル1が発令されあいにくの雨模様となりましたが、牛飼いの「彦星」と機織りの乙女「織り姫」は1年振りに会うことができたのでしょうか?
さて、時は巡りこちらは現代の牛たちのお話。その名も「新界牛」。今日は香港の通勤事情についてのお話です。

「会社までどうやって通われているんですか? 時間はどのくらい……」「えっ、近くにMTRの駅ってありましたっけ?」空港とディズニーランドのあるランタオ島に居住しているわたし。初めてお会いする方に自分の住んでいる場所を告げると、判で押したような決まり文句が返ってきます。

来港後、サービスアパートメントの仮住まいを経てこの街に居を構えることに決めたのは子どもたちの通う学校の近くに住むためでした。代わりに犠牲にしたのはわたしたち夫婦の通勤移動時間。オフィスに向かう場合も、直接、約束の場所へ向かう場合も、大抵、到着したい時刻の1時間半前には自宅を出発せねばなりません。

MTR東涌線と迪士尼線の欣澳駅。自宅からバスで15分の最寄駅。

東京都の面積のおよそ半分。広くはない香港ですが、住む地域によって家賃には幅があります。3年前、わたしたち家族の香港での最初の住まいとなったのは香港島の太古。MTRの駅に直結するサービスアパートメントの1LDK。1ヵ月のお値段、HK$44,000也。キッチンには小さな冷蔵庫、旧式のIHヒーターが2口、昭和レトロな電子レンジ。洗濯機は備わっておらず、エレベーターを乗り継いだ先の別棟にコインランドリーが設置されていました。4歳1歳の兄弟がベッドから転がり落ちないよう夫婦で両サイドから2人を挟んで、1つのベッドに肩寄せ合いながら眠ってたっけ。光熱費込み。週2日、お掃除に入ってもらえるし、週1回、シーツも交換してもらえるのですが、決して快適とは言い難い空間に当時のレートでひと月60万円を超える家賃を支払うことに複雑な思いも抱いていました。

サービスアパートメント階下のテナントAEON。家賃は高かったけれどとても便利だった。

3ヵ月後、引っ越してきたランタオ島。リビングの窓から海が見渡せる広々とした4LDK+住み込みのお手伝いさん用の別室。香港では珍しい低層住宅の家賃は、奇しくも香港島に住んでいたときと同じ1ヵ月HK$44,000。香港島へ向かうときは1時間に2本のフェリーに25分乗船して中環へ、九龍へ向かうときは自宅からバスでおよそ15分の最寄駅からMTRでの移動となります。

帰宅途中のフェリーからランタオ島を臨む。穏やかな夕暮れ。

2021年の人口センサスによれば、香港の人口740万人の分布は香港島16.1%、九龍30.1%、新界53.7%(注1)。労働人口(395万人)の分布もほぼ同様の割合です(16.7%、29.5%、53.8%)(注2)。働く場所を見てみると、40万人が在宅勤務、60万人が自分の居住する区で勤務しているとのこと。片や、居住地から区を跨いで通勤している人々は210万人ですが、うち70万人。3人に1人は、わたしのように新界から香港島や九龍で働くためはるばる長距離移動をしている「新界牛」なのだそうです(注3)。

「新界に住んでる人のこと『新界牛』って表現してたの見かけたんだけど、『新界牛』って、使う?」会社で尋ねると「それ、新界に農家が多かった昔の話。今やニュータウンとして発展してるからね」わたしが変な広東語を覚えないよう香港人の同僚が大真面目に答えてくれました。

10年おきに実施される人口普査(センサス)。ビジュアルな図解からみる“香港の風景”。(注4)

確かに、香港のこの10年の人口移動を見ると、人口が増加している区、トップ5は離島(+31.1%)、元朗(+15.5%)、深水埗(+13.2%)、西貢(+12.0%)、沙田(+9.9%)。一方、香港島は灣仔(-8.2%)を筆頭に、すべての区において軒並み5%以上、人口が減少しています(注5)。深水埗を除けば人口が大幅に増加している地域は全て新界で、香港でもドーナツ化現象が進んでいるのが分かります。家賃の高騰に加え、新線開通による地下鉄網の充実でアクセスが便利になったことも背景にあるんだろうな。通勤時の主要交通手段、第1位のMTRは労働人口の4割超、実に115万人もの人々が日々の通勤に利用をしているのだそうです(注6)。

中環駅/香港駅の地下通路。ifcを通り抜け小走りすればフェリー⇔MTRの乗り換えは10分。目的地まで急げ!

「MTR、赤と青と緑の線だけで、確か、赤の線の終点が美孚、緑の線の終点が観塘だったと思うんだよね。あとさ、小学校の社会科見学でバスで行ったところ、本当に牛がいたんだ」1980年代、マンションの窓から建設中の中国銀行タワーを眺めながらミッドレベルで幼少時代を過ごした香港人の夫も、今や「新界牛」の仲間入りを果たしました。休日になると簡易テントをひょいっと担いで子どもたちと近くのビーチの砂浜へ。平日も臨機応変に出勤をウェブ会議に切り替えながら、この街での生活をそれなりに満喫しているようです。

変化し続ける香港の風景。現在、小学生の息子たちの未来には「上班(=出勤)」という言葉すら過去の言葉となってしまうのかもしれませんが、70万人のひとり、わたしの早起き「新界牛」生活。眠い目をこすりながら子どもたちのお弁当を作り、ハイヒールでバス停に猛ダッシュする生活はもうしばらく続くことになりそうです。

Emi in HK。多謝收睇。下次見!

 


【出典】
※注1…「2021人口普査―簡要報告」(香港特別行政區 政府統計處)表7.1,p.92.
https://www.censtatd.gov.hk/en/data/stat_report/product/B1120106/att/B11201062021XXXXB01.pdf
※注2…「2021人口普査―簡要報告」表7.5,p.97.から算出
※注3…「2021人口普査―簡要報告」表7.8,p.100.から算出
※注4…「2021人口普査―主要統計數字」(香港特別行政區 政府統計處)
https://www.census2021.gov.hk/doc/pub/21c-key-statistics.pdf
※注5…注1に同じ
※注6…「2021人口普査―簡要報告」表7.9,p.101. 輕鐵を除く本地線(Local line)の値


 

Emi
映像プロダクション会社勤務。大学院修了後、日本・東京商工会議所にて、中小企業の資金調達支援から政策立案時の省庁との折衝まで多岐にわたる業務に従事。
15年半の勤務を経て2019年、夫の仕事の都合により来港。2020年から現職。夢は日本と香港の合作映画の製作に関わること。気分転換は25年振りに再開したピアノ。インター校に通う7歳、4歳、男児2人の母。

Twitter   @emi_m_wang
E-mail  emiinhkg@gmail.com

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