2023/02/21

前回は、「成長とは何か」について、親が子どもに接する際に、成長のタイミングを見計らい、その時期に合わせた声掛けが重要だと述べました。特に「思春期」は、親も子も、まさに疾風怒濤・嵐の時代と言えるのではないでしょうか。クリニックに来院された、思春期のお子さんをお持ちの保護者の方からも、「毎日、家の中の空気が張り詰めています」、「部屋にこもっていて何をやっているのか・・・」といった声を耳にします。では、この「思春期」において、子どもたちの身体と心は何を経験しているのでしょうか。

そもそも、「思春期」とはいつから始まり、いつ終わるのでしょう。個人差がありますが、身体が大人になる準備をし始める第二次性徴を始まりとするならば、早い子で9歳頃から前思春期は始まっています。女子の方が2年前後、男子よりも身体的・情緒的発達が早いことが多く、身体的成長の減速と共に、18歳頃、思春期は終わりを迎えます。

3つの観点から、思春期の変化をまとめてみました。

1.【身体的変化】

第二次性徴が起こるタイミングで、ホルモン変化に伴う身体的変化が顕著に起こります。男女共に、身長が急激に伸びることも多いですし、男子であれば髭が生えたり、声変わりもあるでしょう。女子においては、胸が膨らんだり、月経が始まります。こうした身体変化に伴い、性への不安も高まります。外見や服などへのこだわりは、年齢を追うごとに強くなります。友だちと出かける前に、何時間も鏡の前で髪をセットしていたり、一人ファッションショーが繰り広げられるのもこの時期に顕著です。

2.【脳内変化】

脳内も、様々な変化が起こっています。例えば、体内時計の調整を司る視交叉上核と呼ばれる部分。最近の研究では、睡眠タイプが朝型か夜型かは、遺伝子によって決まることが分かっていますが、今まで朝型だった子でも、思春期には、視交叉上核の変化により、体内時計が後ろ倒しになるそうです。この変化による慢性的な睡眠不足は、自立神経の乱れに繋がり、めまいや息切れ、倦怠感といった症状から、起立性調節障害と診断される子が思春期に多くみられます。他にも、物事を順序立てて計画したり、衝動を抑制したり、理性を働かせる部位である前頭前野が25歳頃まで時間をかけて形成されるのに対し、感情や情動の処理を担う偏桃体や、報酬や刺激を求める側坐核と呼ばれる部位は、それよりも早くに成長します。この脳の成長のアンバランスが、刺激に対して感情を爆発させる、いわゆる、キレて物や人に当たるという現象に繋がりやすくなるのです。また、報酬や刺激を前にした時に、自分自身で衝動をコントロールすることが難しいため、例えば、インターネットやゲーム依存に繋がりやすくなるわけです。

3.【心理的変化】

思春期は光と闇の部分が極端に現れる時期と言え、アンビバレント(両価的)な状態です。親への強い同一視を見せる一方で、社会や大人に対しての怒りも表出しやすく、さっきまで親に甘えていたのに、突然、拒否的な態度を取ることも多くなります。好きなアイドルに自分を重ねてみたり、憧れの人に没頭したりすることで、空想の世界が広がる一方、現実世界では人から嫌われることに怯え、その恐れを相手に投映し、攻撃したくなることもあります。同時に、孤立の不安も高まる時期なので、親密な愛着関係を同輩集団の中に求めます。そして、自分だけの秘密を持ちたくなる時でもあります。日記やブログを書いたり、最近であればSNSで記録を残していたりする子も多いでしょう。親から心理的に離れ、「自分が何者であるか」、「将来、何がやりたいのか」など、「自我同一性(アイデンティティ)」を模索することが、心理的な課題となります。

思春期は身体的・精神的・脳発達的に非常にアンバランスな時期です。日本では、病院によっては思春期に特化して診察する「思春期外来」があるように、この時期特有の問題が顕在化しやすい時期でもあります。

・ダイエットを気にし過ぎてご飯を食べない、もしくは食べ過ぎてしまう

・汚い物に触れたり見たりすることを嫌がり、一日に何十回も手を洗う

・自分の身体を傷つける

・気力が感じられず、学校にも行きたがらず部屋にこもっている

・毎日、遅くまでゲームに熱中し、睡眠のサイクルが昼夜逆転してしまっている  等

こうした状態が続くようであれば、なるべく早く、医療機関を訪れることをお勧めします。本人が行きたがらない場合は、保護者の方がまずは来院するだけでも、問題の解決に近づくことがあります。

年齢が上がるにつれ、子どもの自我が芽生え、意思がはっきりしてくると、「なんでこんな子になってしまったの」と、小さかった頃のように純粋に「かわいい」と思えなくなる瞬間も多くなり、自己嫌悪することも多いでしょう。アイデンティティを形成する上で貴重な思春期をどうサポートできるか、また、この時期の子どもに寄り添う大人にも、同様にサポートが必要であると切に感じます。次回は、思春期の子どもへの接し方や対応について考えてみたいと思います。

 



河合 まり絵

臨床心理士。日本ではスクールカウンセラーとして、不登校児童や別室登校児童、発達に偏りのある児童への心理的サポートや、精神科クリニックで、パニック障害、PTSD、うつ病、摂食障害などの個別カウンセリングを実施。リワーク外来では、精神疾患などで休職中の患者に対し集団療法を、また、復職後の企業内フォローアップ・カウンセリングを実施。刑務所内では、グループ矯正教育をするなど、教育、医療、産業、司法の分野で臨床経験を積む。香港に移住してからは、3児の子育てに追われるも、縁あって精神科クリニックに復職。

 

OT & P Healthcare/ Mind WorX Clinic
MindWorXはOT and P Healthcareが運営する精神科専門のクリニックです。
中環駅(セントラル)から徒歩2分の場所に位置しており、簡単な日本語を話せる医師と、日本人の臨床心理士が在籍しておりますので、薬の処方と共にカウンセリングを並行して受けることが可能です。投薬はしたくないけれど、カウンセリングを受けたいという方もご相談下さい。

以下のようなことでお困りの方は、是非、一度、ご相談下さい。
・夜、なかなか眠りにつけない、または、朝、早くに目が覚めてしまいすっきりしない
・不安や心配な気持ちがいつも頭を離れない
・過度に食べ過ぎてしまう、または、食欲がない
・子育てに疲れている
・コロナ禍でストレスが溜まっている
・夫や妻、パートナーや他者との関係に悩んでいる など

初回予約の際に日本語でのサポートが必要な方は、marie.kawai@otandp.comにemail を頂ければ、日本語での対応が可能です。

Mind WorX Clinic
OT&P – Internationally Accredited Medical Clinics in Hong Kong (otandp.com)
6/F Century Square, 1 D’Aguilar Street, Central, HK
中環徳己立街1號世紀廣場6樓
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