2023/11/11

英語では「Titian」と書きますが、正式にはTiziano Vecelli (または Vecellio)。日本語では「ティツィアーノ」と言われるのが一般的。ヴェネチア派のティツィアーノ(1488年/1490年頃~ 1576年8月27日)はヨーロッパではあまりにも有名です。ちなみに同時代のフィレンツェ派巨匠としてはラファエロの名が挙げられます。ティツィアーノの独特な色彩感覚と筆使いは、後のベラスケスやレンブラントにも大きく影響を与えたといわれていて、絵画の歴史的にも大変重要な画家なのです。また、90歳を超えて生きた長寿としても有名で、肖像、風景、古代神話、宗教などあらゆる分野の絵を数多く残しました。彼の作風は年代によって大きく変貌しましたが、色彩の傾向は生涯を通して大きく変わることはありませんでした。

今回そんなティツィアーノの作品と彼の工房による作品の計50点をも貸し出したウフィツィ美術館とのコラボとなる特別展をたっぷり楽しんでいただけます。展示では伝統的なウフィツィ美術館らしさも残しつつ、香港らしく挑戦的な展示を試みたと館長。大変面白いインタラクティブ展示や香港人アーティストも参加した革新的な特別展です。ぜひ、本物に触れて、新しい楽しみ方もできる本展示会に、家族で訪れてほしいと思います。今回は、絵画は苦手という人にも、少しでも作品鑑賞が面白くなるようにレポートしてみたいと思います! 最後までお付き合いくださいね!


1P:見方が面白くなる展示作品の紹介

2P:MOAの挑戦!これは楽しい!


MOA館長Dr Maria Mok(左)、ウフィツィ美術館学芸員Ms Anna Bisceglia(中央)、MOA学芸員Ms Prudence Ma(右)

今回は50作品を9つのテーマごとのセクションに分けて展示されています。最初の部屋のテーマはVenice as a Theatre(ベニスを舞台と見立てた絵画)。足を踏み入れて一際目につくのが写真下の中央にある作品「Madonna of Mercy」 。ティツィアーノ80歳を過ぎた頃の作品です。宗教画によくあるマリアが教会と群衆を祝福する図です。

Madonna of Mercy/ Titian  (Tiziano Vecellio)
1573 – 1574 / Oil on canvas / 154 x 144 cm  /Gallerie degli Uffizi

周りの絵に比べて少し高めに設置してるのが分かりますか? これは元々チャペルの上の方に掛けられていたことに配慮したディスプレイなのだそう。

そしてマリアを取り囲むようにして跪き祝福を乞う者たちをよく見てみましょう。

この絵が特別なものとして捉えられている理由は、この絵の中に画家ティツィアーノ自身が描かれている点です。黒のガウンに金のネックレスをした白髪の男性がティツィアーノ本人です。彼は自身だけでなく、彼の家族も周りに描いており、特に彼の息子アラッツィオや、後にティツィアーノの工房を引き継ぐ甥のマルコの顔も見られます。画家はよくこのように自身を絵の中に描き込むことがありますが、これは画家自らの地位や名誉を誇示していると言われています。群衆の後ろの方にチラッと見えるのではなく、ど真ん中に堂々と描かれていることから、当時のヴェネチアでの彼の影響力の強さを見て取ることができます。

そして今回ポスターにもなった作品「フローラ」(下)。古代ローマ神話に登場する花と春の女神フローラです。多くの画家がこのフローラを題材に描いていますが、ティツィアーノが30歳頃の作品である「フローラ」は、ギリシャ風の柔らかい服を纏う美しい肌で胸がはだけそうな姿です。素晴らしく艶やかで豊潤。上の絵の渋さとは真反対に、明るく生命感が満ち溢れていませんか? 美術館は、今回の展示には特に展示室の雰囲気とライティングにこだわったそうです。美しい絵画が、完璧なほどに光輝いて見えます。ぜひ実際に入場して見ていただきたいです。

Flora / Titian (Tiziano Vecellio)
1515 – 1520 / Oil on canvas / 69.7 x 73.5 cm / Gallerie degli Uffizi

メディアツアーでは、イタリア、ウフィツィ美術館の16世紀絵画が専門の学芸員アナさんによる解説をしていただきました。なんとも贅沢!! 学芸員から伺った展示作品の見どころもこの記事でお伝えします。

裸体は淫らと言われた時代、彼は数々の裸体の肖像画も書いていますが、それらは全て「女神」として描かれています。

整った顔立ちと意思の強うそうな目元にかすかに見えるピンク色の頬、そして少しの微笑みを浮かべた口もと。何を見て何を感じているのでしょうか? 滑らかな肌質と、美しく妖艶な色味は色彩を重視するヴェネチア派ならでは。ティツィアーノは女性の髪の毛の色をいつも赤毛で描きました。当時は赤毛の女性が美人の象徴でもあり、ティツィアーノが描く赤毛の色を「ティツィアーノレッド」と言われていて、現在でもアパレル業界などで使われています。

手に握る薔薇の花が女神を象徴しています。

ちなみに、このフローラの構図を真似たと思われるレンブラントの作品「フローラ」(1654年頃、メトロポリタン美術館所蔵)。白い服を纏い同じ腰から上という構図で、右手には同じように薔薇の花を持っています。大変興味深いですね(注意:こちらは今回の展示品にはありません)。

 

そしてティツィアーノ60代から70代に描かれたビーナス像(下)。こちらにはキューピットや薔薇の花、足元に鳩が描かれています。これらは全て愛の女神としての象徴です。こちらの絵は元々は裕福なカップルの寝室に掛けられていたと考えられています。

Venus and Cupid with a Dog and a Partridge / Titian (Tiziano Vecellio) 
1550 – 1560 / Oil on canvas / 139 x 195 cm / Gallerie degli Uffizi

まとわりつくキューピットがかわいいですね。これでもかというほど、女神の象徴が描かれています。

下の絵は自由な構図と動きが特徴の躍動感ある作品。

Solomon and the Queen of Sheba/ Andrea Vicentino / ca. 1580 / Oil on canvas / 222 x 225 cm / Gallerie degli Uffizi

「自然と日常の絵」のセクションにある、「聖母子と聖ルカ、アレクサンドリアのカタリナ」は、多くの画家によって度々描かれる題材で、ティツィアーノが描いたこの聖母子像は、彼が描いたいくつかのヴァージョンのひとつです。イエスに対する聖母マリアの母性愛を表した作品で、マリアが身に纏う色は青と赤。青は天国の女王として、赤はキリストの血を象徴し、磔刑(はりつけの刑)を表しています。この作品とは違うバージョンのものが、2011年、ティツィアーノの作品としては史上最高額となる1,690万米ドル(当時の価格で約14億円)の競売価格がつきました。

これまで人物画なるものが主流であった時代、ティツィアーノは人物画に風景を加え、人物の背景にある自然によって人間の感情を表現しました。この手法は、若くして亡くなった兄弟子のジョルジョーネから引き継いだもので、ティツィアーノが確立したと言われています。

Madonna and Child with St. John the Baptist and Catherine of Alexandriα /Titian (Tiziano Vecellio)/ Oil on Canvas/ 93X130cm/Gallerie degli Uffizi
「神話と古典」の部屋に掛けられている「キリスト像」。本来なら宗教画と考えられるはずが、神話のセクションにあるのは、彼の筋肉や骨格は、ギリシャの彫刻を参考にしたと考えられているからだそうです。
Ecce Homo/Titian (Tiziano Vecellio)/ Oil on Canvas/ 93X130cm/Gallerie degli Uffizi

 

MOAの挑戦!これは楽しい!

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Hong Kong Museum of Art(MOA)

Webサイト
https://hk.art.museum/

入場料
Family Pass (for a maximum of 4 persons of kinship) HK$100
Individual Pass HK$50
Concessionary Pass
(full-time students, people with disabilities and senior citizens aged 60 or above) HK$25

開館時間
*ナイト・バイブ香港キャンペーンを積極的に展開するため、HKMoAは2023年9月29日から11月26日まで、金、土、日、祝日の開館時間を午後10時まで延長するトライアルを実施しています。

月曜日から水曜日、金曜日 10:00〜18:00
土曜、日曜、祝日 10:00〜19:00
クリスマス・イブ、旧暦大晦日10:00 – 17:00
木曜日(祝日を除く)、旧正月の最初の2日間は休館。

ボックスオフィスは閉館の30分前に受付終了します。

 

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