2023/06/10
「食得是福(セッダッシーフォッ)」。香港には、“食べることは、幸せにつながる福である“という意味の言葉があります。おいしいごはんが毎日しっかり食べられる、それが一番幸せなこと。家族揃って囲んだ食卓、一緒に食べたあの味——そんな記憶たちが、人生を豊かにしてくれるのです。外食文化が盛んな香港では、あまり家で料理をしないなどとも言われますが、家に帰ればお母さんやおばあちゃん、時にはお父さんの愛情たっぷりの手料理が待っている家庭も多いようです。
そんな香港のおうちごはん、ちゃきちゃき仕事の早い香港人らしく、手早く作れて、けれどおいしさには妥協なし! のメニューが揃っています。みんなで一緒にわいわいとごはんを食べることが、何よりも幸せ。そんな香港の家庭料理を、料理研究家の雲姐(ワンジェ)さんに教えていただき、わたしたちもご相伴にあずかりましょう!
イラスト:川戸みなみ(Minami Kawato)
目次
料理研究家の雲姐(ワンジェ)さん
みんな大好き定番料理
香港家庭料理を教えてくれるのは、料理研究家の雲姐(ワンジェ)さんです。
香港に生まれで幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父親の手料理を食べて過ごしていたそう。オーストラリア移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深く、現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中です。
Instagram: recipesanctuary
雲姐さんはHong Kong LEIで香港家庭料理レシピの連載コラム「雲姐(ワンジェ)の香港家庭料理レシピ」を執筆中。この度、連載50回を記念して、好評だった雲姐さんの過去の香港家庭料理特集とコラムの総集編をお届けします!
雲姐さんのコラムの見どころはレシピだけではなく、ちょっとノスタルジックでキュンとくる香港での子ども時代の思い出が綴られているところ。全てのお料理に雲姐さんの家族愛や食材愛があり、彼女のコラムの醍醐味は、そういった隠れたストーリーが、料理をさらに味わい深くする隠し味の醤(ジャン)のような役割になっているところです。皆さんもぜひ雲姐さんが監修してくれたお料理の特集と、これまでのコラムを読みながら、香港の家庭料理を作ってみてはいかがでしょうか?
【雲姐さんに質問!】
ー 雲姐さんにとってお料理とは?
子どもの頃から祖母のお手伝いでお料理をしていました。父は仕事で会食をすることが多く、だからこそ家にいるときは外食をするのを嫌って、わたしはほとんど外食をしたことがありませんでした。しかも10代の頃は家族のお料理も作るようになり、父親が30人以上の客人を連れてきた時も全てわたしが作って出していました。だから好きというより、いつも身近にあって、おいしい、おいしいと言って食べてくれた人がたくさんいたので、気がついたら生活の一部になっていたんです。しかもお料理を通してお友だちもたくさんできたので、お料理はわたしのツールであり、自分のアイデンティティーでもあったのです。
ーコラムなどでご紹介してくださっているお料理は、一般に香港のご家庭で食べられているお料理なのですね?
そうです。普通の家庭で食べられている料理です。わたしが子どもの頃に食べて以来ずっと作り続けている家庭の味です。わたしが子ども時代に食べた味を再現したり、旬の食材をみてパッと思いついて作ったりもします。食材や調味料の組み合わせ方を知っていれば、そんなに迷うことはありません。
ーお料理に気をつけていることは?
とにかく旬のものを使うようにしています。娘にアトピーがあるので、MSGなどが入った食べ物は食べると痒くなるようなので、なるべく食べないようにしたり、醤(ジャン)でも何でも自分で作るようにしています。また食材には陰陽があり、体を温めたり、熱を取り除いたり、湿を取ったりするものがありますので、体調を見ながら食べるものを決めています。
ー今は日本在住ですが、香港からぜったい取り寄せたいものは?
日本にいれば、実は何でも自分で作れちゃうので、醤(ジャン)のような調味料も自分で作ります。野菜などは同じものはなくても似たようなものはあるので全く問題ないですね。我が家の家庭料理といえば、香港のお料理ですが、今まで「これがないから作れない」ということはほとんどありません。
ー香港は早速、暑い夏がやってきましたが、今だからこそ食べたら良いメニューをコラムの中から3つご紹介していただけますか?
こちら以下の3つをご紹介します。どれも身体の熱や湿などを取り除いてくれたり、さっぱりするものです。6月15日に新しく公開するものも、瓜を使って身体の湿を取り除いてくれるものです。とっても簡単に作れて、暑くて食欲がないときでもおいしく食べられます。
雲姐さんの全レシピ
香港的“おふくろの味”と言えば必ず名前が挙がる、香港家庭料理の定番中の定番をご紹介。 初心者にも作りやすいレシピはオンラインでどうぞ。
1)コトコト煮込むスープ「広東老火湯(クワントンロウフォートン )」
南北杏雪梨瘦肉湯(ナム バッ ハーン シュッ レイ サウ ヨッ トン)
梨の薬膳スープ
「無湯不餐(モウ トン バッ チャン)[スープがないと食事が成り立たない]」という言葉のとおり、香港の食事でまず何よりも大事なのがスープ。 季節や体調に合わせ、中医学の教えに基づいて食材を組み合わせます。香港ママたちが毎日たっぷり愛情を込めて作るこのスープが、ご長寿の多い香港人の健康の秘訣であり、食事の“要(かなめ)”です 。「老火湯」は、長時間煮込むことで、素材の栄養とうま味が溶け込んだスープのこと。今回ご紹介するのは、暑く湿度の高い夏が終わり、乾燥した冬へと向かう季節の変わり目によく飲まれる梨のスープです。体内にこもった余分な熱を冷まし、喉や肺を潤してくれる梨に、杏仁と赤身の豚肉を合わせ、味付けは塩味のみでさっぱりフルーティ。コツは、とにかくじっくり煮込むこと。空気が乾燥し、喉や肌がカサつくな……と感じたら、 ぜひお試しを。
「医食同源」の思想が日常生活に深く根づき、日々の食事 で養生をする香港人。日本で言うところの「一汁三菜」と同じ 「三餸一湯 サンソンヤットン」、つまり栄養たっぷりのスープ(湯トン)と数種類のおかず(餸 ソン)をバランスよく食べるのが、日々の食事の基本です。食べ始める前に、まずスープを1杯。 喉を潤し、空っぽの胃を優しく刺激します。食卓には肉料理と魚料理、そして必ず野菜の1 品も。素材を生かした調理法と淡白な味つけで、辛い香辛料は使わず、発酵させた醬や乾物で香りやうま味をプラスします。蒸したり炒め煮にした汁だくの料理が多く、具の味わいが溶け込んだおつゆを白いご飯にかけて食べるのも、香港のおうちごはんの醍醐味だとか。
それぞれの料理は大皿で食卓の真ん中に置き、みんな好きなおかずを好きなだけいただきます。「取り分けられていないから、思わず食べ過ぎてしまうことも。スープを最初に飲むのは、食べ過ぎを防ぐ意味もあるのかもしれませんね」と雲姐さん。
2)広東式の蒸し魚「清蒸魚(チンジンユー)」
果皮蒸泥鯭(グオペイジンネイマーン )
アイゴの陳皮姿蒸し
作り方はシンプルながら見栄えよし。蒸し時間のタイミングに少し経験が必要な「清蒸魚」ですが、コツさえつかめば大丈夫! 日本では四国や九州でよく見るアイゴは、香港では「泥鯭(ネイ マーン)」と呼ばれ、昔から親しまれている大衆魚です。独特の泥臭さがあるため、蒸すときは香りの良い乾燥ミカンの皮「陳皮(チャンペイ)」を合わせます。
3)鯪魚のすり身で 一式三味
アレンジ3品
「鯪魚」は鯉科の淡水魚。小骨が多いため、香港ではすり身にして食べるのが一般的です。お店でも気軽に買えるこのすり身は、 忙しい毎日のお助けアイテム。時短でお手軽に魚料理が作れます。焼いたり蒸したり団子にしたり、滑らかで弾力ある独特の食感がおい しい! プレーンから味つき、ネギ入りまでいろいろあるので、好みのものを探して。
1.香煎鯪魚餅(ヒョンジンレン ユーッベン)
魚のすり身焼き
香りの良い薬味を加えてよくこね、 ハンバーグのように焼き上げます。 シンプルながら、もちもちの食感がやみつきになります!
2.生菜鯪魚肉湯(サンチョイレンユーヨットン )
魚のすり身団子とレタスの簡単スープ
スープをじっくり煮込む時間がない! という日には、さっと作れておかずにもなるスープが便利。レタスのシャキシャキ感を残すのがコツ。
3.老少平安 ( ロウシウピェンオン )
魚のすり身と豆腐のふわふわ蒸し
魚のすり身を豆腐と合わせた蒸し料理。とろけるような滑らかさとやわらかさで、お年寄りも子どもも安心して 食べられる、というのが名前の由来。
4)食後のデザートには「糖水(トンソユ )」
薑汁蕃薯糖水(ギョンジャッファンシュートンソユ)
さつまいも入り生姜のスイートスープ
食後のシメは、ほんのり甘いデ ザートで。香港の伝統的なスイーツ「糖水」は、漢方で身体に良いとされる食材を使った温かいスープ。 優しい甘みに身体も心もほっとします。家庭でよく作られるのは素朴な「おいものスープ」。大晦日にはぜひ、家庭円満を願って食べる風習のある胡麻団子を足してみて。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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