2024/05/01

Mirrorは現在、世界ツアーを敢行中。欧州、北米のツアーを終え、次はアジア。４月末現在、メンバーは次の巡業先、アジアに向けて英気を養っている最中です。

世界ツアーの合間、香港にいる時間にMirrorのメンバーは絶賛上映中の主演映画「12怪盗」の謝票を行ってくれています。謝票は日本でいう舞台挨拶で、制作スタッフや出演メンバーが観客の前に現れ謝意を示すイベント。ファンにとっては推しとのデート。10分程の逢瀬が映画代というお手頃価格で買えるとあって、ファンは競ってチケットを買い求めます。

超レアなメンバー12人全員登場の謝票。壮観です。Ⓒangie.hather

今回「12怪盗」公開にあたっては、この謝票が様々な反響を呼びました。一つ目はファンの過熱ぶり。謝票が発表されるや否や、確実にチケットを手にするために映画館で夜を明かすファンが続出。プレミアのイベントでは10日前から並ぶファンもいたとか[1]。二つ目は謝礼の回数。その数、四月初旬の時点で既に400場[2]。2022年に「飯戯功心」が200場の謝票を決行し、話題を呼びましたが、本作はその２倍。結果、謝票の数日間だけで興行収入がHK$1,500万を超える、記録的な結果をはじき出しました。三つ目はこの成績が謝票だけに頼っているという批評（批判）です。この「12怪盗」はいわゆる典型的なアイドル映画。プロットは非常に単純、凝った演出もなく、ひたすらMirrorメンバーの魅力に集中できる作りとなっています。一部の辛辣な評論家からは「ばかばかしくて、つまらない[3]」と評され、某英字新聞からは５点満点で最低の１点よりも低い得点を付けられてしまいました。事実、謝票が行われない期間の「12怪盗」の成績は芳しくなく[4]、この映画は謝票に頼った映画だと評されても仕方がないのかもしれません。

でも、これは一概に悪いことではないと感じています。

香港の映画産業は近年、コロナ規制のために映画館の閉鎖、撮影の中止など数々の憂き目に遭い、大打撃を受けました。また、皆が娯楽に飢えていたこの時期に普及が進んだNETFLIX やDisney+ といったサブスクサービスは観客が映画館に行く理由を奪ってしまいました。コロナ規制が解除されても状況は改善しなかったのです。

最新の香港映画業界のレポート によると、「2023年の興行収入は非常に低い数値にとどまり、12年前の水準まで後退」[5]しているとか。そんな中、映画館にバリバリ集客可能なMirrorの作品を救世主と呼ばずなんといいましょう。謝票を行えば、鏡粉はその数だけ確実に映画館に足を運びます。足を運んだらポップコーンを買います、コーラを飲みます。チケット以外にもガッツリお金を落とすんです。Mirrorの作品は香港映画、映画館の売り上げに貢献しているんです。

映画製作についても同様です。Mirrorのメンバーが出演する映画には、新しい監督が起用されることが多いんです。例えば今回の「12怪盗」の何國敏監督は今作品が初めての監督作品、AK（江生）主演の「七月返歸」、AL（盧瀚霆）主演の「釀魂」もしかり。KT（姜濤）とJer（柳應廷）出演の「ママの出来事」やEdan（呂爵安）主演の「過時過節」「死屍死時四十四」はそれぞれ作品が２，３作目となる新進の監督です。新しい監督はMirrorの映画を作ることで経験を積み、そして大きな興行成績と知名度とネームバリュー、成績によっては国際映画祭に出品する機会を得ることができるのです。いわばMirror映画は監督養成インキュベーター。未来の大監督が羽ばたく場を提供しているのです。

また、これらの直接的な影響だけでなく、Mirrorと共演する俳優たちが注目を浴びることとなったり、Mirrorファンが映画館を訪れて、他の映画にも興味を持ち出したり、映画のロケ地が聖地となり、お客が増えたり・・・間接的なベネフィットは数多く考えられます。今から10年後、香港の映画産業は、Mirrorから恩恵を受けた人たちが業界をリードしているかもしれません。

香港映画産業の復興に貢献してくれてありがとう、Mirror！

[1] 香港01 2024年３月19日

[2] TOPic 2024年３月28日号

[3] 香港01 2024年3月29日

[4] 香港01 2024年4月3日

[5] Hong Kong Box Office Ltd 2024年1月2日

紅磡リンダ（ほんはむ りんだ）
20年にわたる英国生活、広告代理店勤務、編集者稼業に終止符を打ち、2019年に香港に移住。
移住とともに人生で初めてアイドルに目覚め、Mirror 沼に沈没。沼から鏡（ミラー）越しに見える、新しい香港を発見する毎日を送る。

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