2022/05/15

山水豆腐花
(サン スイ ダウ フ ファ)
【香港豆腐スイーツ】

山から流れてくる豊かな湧き水がある地域は有名な観光地であることが多い。同時に、冷たく口当たりが良い名水がある場所はおいしいお豆腐があることも多い。羊蹄山真狩村のカムイワッカという湧水、日光名水、大山・丹沢、奈良県の天川村の名水等など。おいしい水があるところは、たいていお豆腐も有名。お豆腐の原材料はとてもシンプル。大豆、水と凝固剤だけ。お豆腐の8割以上は水分。水さえおいしければ豆腐もおいしいという事なのだ。
香港にも名水地があった。以前は。場所は『沙田』(サー ティン)。
『沙田』の『山水豆腐』(サン スイ ダウ フ)【和訳:湧き水で仕込んだ木綿豆腐】と『山水豆腐花』(サン スイ ダウ フ ファ)【湧き水で仕込んだ香港豆腐プリンスイーツ】は80年代までは名物だった。湧き水を広東語で言うと『山水』(サン スイ)。
小学校の頃、毎週末は『沙田小瀝源村』(サー ティン シウ レッ ユン チュン)という集落の別荘で過ごしてきた。『爸爸』(バーバー)【和訳:父】が『嫲嫲』(マーマー)【和訳:父方の祖母】の為に建てた赤瓦屋根の白塗り壁調の三階建て洋風別荘。『嫲嫲』は文化大革命がきっかけで香港に来る前は広東省の地主で農業をやっていたらしい。だから香港に来た後も自家菜園をやりたかったのだろうか。一方、わたしは農業に一切興味がなく、むしろ嫌い。別名、植物キラー。買ってきた植物はミントさえ手入れが行き届かず枯らしてしまう。
別荘の裏庭は『嫲嫲』の家庭菜園だった。様々な中華野菜、瓜、豆、バナナなどがあった。『嫲嫲』は中腰姿勢で黙々と野菜を手入れしたり、収穫したり、土を耕したり、一心不乱な姿は傍にいて飽きた顔の私とは対照的。
別荘を広東語でいうと『別墅』(ビッ ソユ)。土の漢字の上に野の漢字がある。面白い漢字。
都会っ子のわたしは当時別荘に行くことにとても抵抗があった。村の入口から20分程の村道を歩かないと別荘に着かないし、虫も多い。村道の両脇の下水が流れる水路が臭いし、野良猫や野良犬もたくさんいた。前庭の花畑の草むしりもやらされるし、 テレビもゲームもなく、ショッピングモールもない。なんの為にわざわざ遠い田舎に行かなきゃいけないのか、全く理解できなかった。
村入口の右側に、もやし兼豆腐工場があった。通るたびに強烈な煮大豆の匂いがして、ずっと頭から離れなかった。豆腐やもやしも売られていた。「豆腐」は『沙田』の名物であることはこの経験から分かった。
唯一の楽しみは『沙田』の有名なレストラン『萃華酒家』(スイ ワ ジャゥ ガー)で食事することくらいだった気がする。そこの『蒸釀山水豆腐』(ジェ ヨン サン スイ ダウ フ)はすごくおいしかった。蒸し立ての喉ごしが良い豆腐の上に海老しんじょうが詰めてあって、甘じょっぱい醤油がたくさんかけてあり、トッピングの青ネギに熱い油をかけるので葱油の香りが立ち昇ってくる。お・い・し・かった~!
2011年の12月、久しぶりに『萃華酒家』に行った。残念ながら『沙田』ではもう豆腐工場はないようだった。今の豆腐は全て他所から仕入れて来たものらしい。とすると、清らかな湧水ももうないということなのだろうか。
この記事を書いていてようやく『小瀝源』の意味が分かった。『瀝』は清らかなという意味。『源』は水源の意味。清らかな湧き水がある場所という意味!!! 別荘に通っていた時から何十年も経ち、今やっと『小瀝源』の意味を知った。なぜ『沙田』は豆腐が有名だったのか、やっと分かった。水が綺麗だったから!
『嫲嫲』も『爸爸』も、もうこの世にいない。けれど、『小瀝源村』でわたしが過ごした時間は今のわたしの宝なんだと気づいた。都会っ子なのに、現在はわんぱく娘のように山登りやハイキングなどの冒険が好きなのは当時、田舎で暮らした経験のおかげかしら?

 

Tip: 豆乳は大豆固形分11%以上のものを使います。凝固剤は石膏粉(硫酸カルシウム・澄まし粉)を使います。石膏粉は保水力が高いから喉ごしがよい滑らかな豆腐ができます。プリンのよるのでデザート向き。石膏粉は凝固反応が遅いので、温度が下がったらなかなか固まらないことも多く、出来れば保温機能がある容器に固まるまで入れておきましょう。
*にがりを使うと大豆の甘味を引き出す力はありますが、喉ごし感は欠けます。デザートに不向き。ちなみに、京都の湯豆腐は石膏粉で固めています。

 

<材料>(2人分)

■豆腐花

豆乳 ……………………………..200cc
水 ………………………………..50cc

【A】
石膏粉 ………………………….0.6g
タピオカ粉 ……………………1.4g
水 ………………………………..20g
*ヨーグルトメーカーは60度の予熱をしておく。

■ 生姜シロップ(辛め)

きび砂糖……………………….25g
生姜……………………………..15g
水…………………………………50g

 

<作り方>

■ 豆腐花
1.【A】を泡立て器で混ぜ合わせてヨーグルトメーカーの容器に入れる。
2. 鍋に豆乳と水を入れて、90度まで沸騰させる(焦げないように気をつけてください!)。
3. 2を1に注ぎ、温度が下がらないようヘラで手早く混ぜ、蓋をして、60度でキープして固まるまで待つ。

■ 生姜シロップ
1.生姜を洗って、水気を拭き取る。皮が付いたままでスライスし、鍋に入れる。
2.1をきび砂糖と合わせて、15分ほどおいておく。
3.水を加えて、沸騰したら弱火で10分煮る。冷めたら濾す。

<食べ方>

1.固まった豆腐を薄っぺらのお玉を水平線で浅く掬って、お椀に入れる。シロップを好みの量かける。


雲姐(ワンジェ)

料理研究家。香港に生まれる。幼少期、平日は祖母、週末は料理が趣味だった父の手料理を食べて過ごす。オーストラリアへ移住を経て、結婚を機に日本へ移り20年以上。中国国際薬膳師、発酵食品ソムリエ、発酵ライフアドバイザーの資格を持ち、中華圏および日本の食文化への造詣も深い。現在は、日本の人々に香港料理を伝えるべく東京で活動中。

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人在東京 Prime Kitchen Labo

 

 

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