2022/12/08


今回ご紹介するところ

茶果嶺天后宮
鯉魚門天后宮


LEI読者の皆様、こんにちは。香港の天后廟を巡る日本人ことやんまです。早くも4回目の連載となりましたが、その間にどこかの天后廟に行ってみた方がいたら嬉しい限りです。

MTRの緑の路線・觀塘線で巡る天后廟の小旅行もいよいよ終盤になりました。前回は觀塘(Kwun Tong)駅から山側に進みましたが、今回は海側にある茶果嶺という場所に向かいます。足に自信がある方は徒歩で約30分、度胸のある方は23Bのミニバスに乗るのが面白いでしょう。

ただし、降りる時に「有落!唔該!(すみません降ります!)」と運転手に声を掛けないと、永遠に降りることができないのでご注意を。一度練習してみましょう、ヤウロ!ンゴイ!

茶果嶺(Cha Kwo Ling)はビクトリアハーバーの東側に位置しています。「茶果」といえば香港や台湾といった中国南部の伝統的な食べ物、日本で言うところの草餅を連想する方もいるのではないでしょうか? 清朝の頃、この茶果を蒸し上げる際に使う葉が近くの丘で多く取れたそうで、そこから茶果嶺という名前が付いたと言われています。そんな場所にある天后廟がこちらです。

 まずはこの独特な外観に驚かされるのではないでしょうか。元々は城壁や砲台だったのではないかと思わせる頑強な石積みの廟こそ茶果嶺天后宮の最大かつ唯一とも言える特徴です。この石は周辺で採れた花崗岩を成形したもので、この一帯の地質的・文化的な背景を端的に示しているといえるでしょう。実はビクトリアハーバーを挟んだ両岸の地質分布は主に花崗岩であり、茶果嶺は漁業とともに採石業も盛んだったそうです。花崗岩はやがて人工アスファルトの原材料にも使われるようになり、ここで採れた花崗岩がもしかしたらビクトリアハーバの埋立事業に使われたかもしれませんね。「天后廟があるから漁業が盛んだったんでしょ?」という、正解だけど少し短絡的な考えに一石を投じるような廟です。花崗岩で出来ているだけに。

中に入ってみましょう。天井には幾重にもぶら下げられた塔香。横の壁に収められた陶器に描かれているのは茶果嶺天后宮にゆかりのある方たちでしょうか。そして祭壇の天后像は華やかに彩られ、よく管理が行き届いていることが分かります。石積みゆえのどこか涼しげな空気の中に、数多いる参拝者の想いの熱さが漂っているような、そんな天后廟です。なお、創建は19世紀初頭の清朝同治帝の頃で、1891年から今の場所にあるそう。また、左の御堂には建築の神様である魯班が、右の御堂には觀音が祀られています。

いよいよ觀塘線の旅も最終目的地の油塘(Yau Tong)に来ました。駅を出て徒歩で約10分、やってきたのは鯉魚門(Lei Yue Mun)、美味しい海鮮料理が食べられるということで日本人にも馴染みのある場所です。レストランや海鮮問屋が集まるエリアを抜け、ビクトリアハーバーの出口を示す灯台のさらに先、もう10分ほど歩くと海と隣り合わせに立つ天后廟が現れます。鯉魚門天后宮です。

海から距離はゼロ。それゆえに時化や台風に晒されがちなのでしょう、廟を守るために天窓が設けられていました。すぐそばにある展望台からは開放感のあるビクトリアハーバーを眺められるのでおすすめです。

廟のすぐ裏手には不思議な形をした巨石がいくつもあります。これらは侵食されて出来た天然物だそうで、文字を刻んで崇めているような石もあります。天后廟こそ1754年創建と古いですが、この巨石たちはそれよりも前から置かれていたのでしょうか。何にせよ長い営みを感じさせてくれます。この巨石群のなかに握りこぶしのような面白い形の石があるので是非探してみてください。足元が少し危ないので滑りにくい靴をどうぞ。

さらに先へ進むと、かつて採石場だった場所があり、干潮時には埠頭跡の先に立つこともできます。鯉魚門は日本人に馴染み深いエリアと言いましたが、採石業が盛んだったという一面を知っている人はあまり多くないように思います。次にお越しの際は天后廟にお参りして、ちょっとした冒険を楽しんでから海鮮料理を堪能するのはいかがでしょうか?

さて、ここまで4回の連載を通して、九龍地区の天后廟を紹介してきました。わたしが皆様に伝えたかった天后廟の持つ魅力、”地理・歴史の面白さ”と”建築の面白さ”を少しでも感じていただけましたか? 特に茶果嶺天后宮はその両方を併せ持っているので、わたしのお気に入りの廟のひとつです。

天后廟のある場所で、天后廟を通して香港の歴史や魅力を再認識する一風変わった小旅行。次回はもっとらしさを感じるべく、離島にある天后廟を巡ることにしましょう。


やんま
2020年10月から出張で香港入り。仕事の傍らになんとなく始めた天后廟巡りにハマり、その魅力をSNSで発信するようになる。やんまは小学生時代のあだ名から。

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