2020/06/15

彼との出会いがすべての始まり

今回ご登場いただくのは、香港らしい街並みや人々を水彩画で表現するイラストレーターの小野寺さん。新宿にあるコーヒーショップに現れたのは、前髪をぱつんと切ったおかっぱ頭が印象的な女性。「最近香港へ行っていないから、エネルギー切れなの!」と笑いながら、インタビューに答えてくださった。

東京で暮らしながら、年に数回は香港を訪れる生活を、20年近く続けている小野寺さん。香港を意識するようになったきっかけは、香港人俳優の「レスリー・チャン」。アジアの名俳優といわれながら、若くしてこの世を去った人物である。

「今は成人している2人の息子たちが、まだ赤ちゃんだったころ、わたしの息抜きは家で好きなフランス映画を見ることでした。ところがある日、夫が『これ、すごく良い映画らしいよ』とビデオを持って帰ってきたんです。それが香港・中国の合作映画でレスリー・チャン主演の『さらば、わが愛/覇王別姫』でした」

中国の歴史に翻弄される京劇役者を描いたこの作品で、小野寺さんは「アジアには、こんなに素晴らしい映画や俳優が存在するのか!」と衝撃を受けた。それは「まるで今まで欧米に向いていた顔を、ものすごい力でググッとアジアへ向けられるような感覚」だったそうだ。同時に、レスリー・チャンにもどっぷりハマっていった。手に入るだけの写真やポスターを家中に貼り、彼の歌を流して大声で歌う様子に「近所の人もあきれていましたね」と、小野寺さんは笑う。

ファンクラブの集いではじめて香港を訪れたときは、街の色と広東語の発音が想像以上に「性に合う」と感じたそう。

「どうして、もっと早くここに来なかったのかしらと思いました。建物の雰囲気や色、白地の看板にに赤で書かれている繁体字、聞こえてくる広東語の響きに、もう胸ズキュン!でした。いろんな人や価値観が混在しているので、自分が紛れられてホッとしたという記憶もありますね」

東京で行われた「ネコトモ展」では香港の猫を描いた。

母の影響を受けて、今のわたしがある

幼いころから絵を描くのが好きだった小野寺さんは、美術大学へ進学。卒業後は5年間母校で美術の教師を務め、結婚を機にイラストレーターの道へと進んだ。

「若いころは、息子をおんぶひもで背負ったまま、イラストを描いたりしていました。あとは、子どもたちが寝たら徹夜で仕事。朝、夫の弁当を作って送り出したら、子どもの世話をして、お昼寝のときに一緒に寝るという生活でした」

大変でも、絵を描く仕事をやめようと思ったことは一度もない。絵の具がにじんでいく様子を見ながら絵を描くのは、やっぱり楽しいからだ。

小野寺さんのアーティストとしての感性は、どうやらお母様の影響が大きいようだ。

「母は、美術大学で本気で油絵を学んだ人です。絵を描く母のそばで、幼いわたしも画材を使い、裏紙に絵を描いて遊んでいました」

幼いころ、転んでケガをすると塗っていた赤い消毒液の「赤チン」。娘がすりむいたひざに赤チンを塗るうちに、絵心が動いてお花畑を描いてしまったというお母様。

小野寺さんの弟が生まれてからは絵を描く時間が取れず、「腕がなまると良い絵は描けない」と絵を描くのをやめてしまったそうだ。

「今の自分が見ても、母が若いときに描いたクロッキーや油絵はレベルが高くて、超えられない自分に、モヤモヤしちゃうんです」

自宅につるされた臘腸(ラプチョン)。これが家にぶら下がっている人は、日本中探してもそういないはず。

香港の色は「根っこが明るい」

香港の絵を描くときは、旅行中に撮った写真を参考にする。歴史的建造物や香港らしい建物は、窓の数、汚れやサビまでも忠実に表現したい。そして、香港人を描くときは、特徴を際立たせることで香港人らしさを出したいと思っている。

「骨格がきゃしゃで、なで肩の人が多いですよね。急いでいて前のめりに歩いている人もよく見ます。あごを小さめにして、足は真っすぐ大またで描くことで香港人らしさを表現しています」

中でも、一番こだわるのは「色」。「写真に写る色をそのまま描くのではなく、自分が感じた色を再現したい」と、60色以上はある水彩絵の具を使って、香港の色を作る。

「東京や台湾、香港など、街によって受ける色の印象は違います。わたしは、その色が好きだと街全部が好きになるんです。香港は、カラフルなのにきつくなくて、気分が上がるような色かな。だから、わたしが作る香港の色は、どこか『根っこが明るい色』が多いです」

今回の表紙に使われている猫の絵は、西營盤の海味街で見た光景を元に、小野寺さんが描いたもの。大きなザルに並べて路上で干されている魚と、そのそばに寄り添う猫。この猫は魚をねらっているのか、それとも通行人や他の猫に持っていかれないように守っているのか、微妙な表情がユーモラスだ。

*Hong Kong LEI vol.38 掲載

WRITER書いた人

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