2025/01/22
Hong Kong LEIの読者の皆様、お久しぶりです。
以前カーバーストーリーに登場させていただいた香港バレエ団の高野陽年です。インタビューを受けた当時はソリストでしたが、24/25年シーズンよりプリンシパルダンサーとして踊っています。今日は来たる1月25日、26日に屯門タウンホールで上演される「Ballet Carnival for Kids: The Mad Hatter’s Tea Party」の舞台裏へ皆様をお連れしたいと思います。
Dancers (from left)_ Jeremy Chan, Nana Sakai, Yonen Takano, Wang Qingxin │ Creative_ Design Army │ Photography_ Dean Alexander
Ballet Carnivalってなんだ? と思われたかもしれません。
Ballet Carnivalは香港バレエ団がバレエをより親しみやすいものに、そして多くの子どもたちにバレエに触れてもらうきっかけを作るために開催している舞台です。普段、香港バレエ団の公演は大掛かりなセット、オーケストラ、豪華な衣装などと一緒に総合演出されるために、チケットの値段は安いものではありません。(いつもご購入いただいている皆様ありがとうございます)
しかし、何とこのBallet Carnival、普段のチケットの1/4(しかも学生に至ってはさらに半額)に設定されているのです。
え、じゃあクオリティも1/4なのかというと……
踊っているダンサーもプリンシパルダンサー、普段主役級の役を踊っているソリストが勢揃い、練習も毎日7時間はこのBallet Carnivalに向けて割いているので本公演と比べても全く遜色のない出来になるはずです。
まだチケットをとっていない方、正直言ってこんなにお得に香港バレエを見ることが出来ることは他にはないのでぜひともお席を確保していただけると嬉しいです。
〈公演概要〉
総合芸術監督のセプティム・ウェバーのヒット作『不思議の国のアリス』が少し短縮され、子どもたちにもっと楽しんでもらえるようになりました。インタラクティブイベントやコスチュームパーティーなども開催され、まさに屯門にカーニバルがやってきます。とにかくセプティムの作品はカラフルで目が休む暇がないほど、刺激的な瞬間の連続です。上演時間はいつもより短くなりますので、子どもたちでも飽きることなくお腹いっぱいになること間違いなしでしょう。
Tea party
〈ダンサーのナレーターデビュー〉
今回はバレエを初めてみる子ども達や今まで敷居が高いと思って観劇を敬遠してきた大人たちにとっても絶好の機会。なんとバレエが親しみやすくなるように劇中にナレーションが入ります。しかも現役ダンサーが広東語と英語を混ぜながら、物語を説明してくれるので、原作を呼んだことのない人でも楽しめること間違いなしです。ナレーションを務めるナタリーはまるでミュージカル俳優のよう。
〈物語のあらすじ〉
『不思議の国のアリス』は、ルイス・キャロルによって書かれたファンタジーの物語です。主人公のアリスは、ある日、服を着た白うさぎを追いかけて、不思議の国に迷い込みます。そこでは、彼女の体が突然大きくなったり小さくなったりするなど、常識では考えられないことが次々と起こります。
アリスは、チェシャ猫やマッドハッター、眠りネズミ、ハートの女王など、個性的で奇妙なキャラクターたちと出会います。特に、ハートの女王が主催するクロケットの試合や、おかしなティーパーティーは、物語の見どころです。アリスは、彼らとのやり取りを通じて、現実とは異なる不思議の国のルールや論理に戸惑いながらも、好奇心を持って冒険を続けます。
物語の終盤、アリスはハートの女王に捕まりそうになりますが、その瞬間に目が覚めます。全ては夢だったことがわかり、アリスは現実の世界に戻ります。
〈セプティム・ウェバー インタビュー〉
セプティム・ウェバー
総合芸術監督のセプティム・ウェバーに今回の上演について、この作品を選んだ理由やキャラクター創作、キャスティングに関することなどをインタビューを行いました。(以下、インタビュー抜粋)
今回の作品の原版となった『不思議の国のアリス』の大成功について教えていただけますか? この作品は高野陽年の香港バレエデビュー作でもありました。
オリジナル制作版は、北米の多くのバレエカンパニーで上演されたほか、オーストラリア全土でも大ヒットしました。香港バレエ団は香港での公演とツアー公演の両方でチケットが完売しています。この成功は複数の要素によるものだと考えています。音楽スコアがダンスに完璧にフィットしていること、デザインが楽しく大胆であること、そしてルイス・キャロルが描いた登場人物たちが生き生きとしたダイナミックな方法で表現されており、ダンサーたちに多くの挑戦を提供していることです。そのため、本格的なバレエファンのための高難度踊りが豊富にある一方で、バレエ初心者も楽しめる明るい作品となっています。
続きは、こちらからお読みください。
〈日本人ダンサーの活躍〉
僕は今回、原作者ルイス・キャロル役、マッドハッターとドードーバードを踊ります。ルイス・キャロルはアリスとともに作品のオープニングダンスを踊ります。常にアリスをリフトしながら踊り、作品の冒頭からギアが上がります。マッドハッターではジャジーなステップが盛りだくさん。茶会のシーンでは長テーブルの上で狂喜乱舞します。ドードーバードは自分のことを世界一グラマラスだと思っているディーバキャラクターです。
Dancers (from left)_ Yonen Takano, Yang Ruiqi
セプティムバレエは体力の限界へ常にチャレンジするのがモットー(本人は簡単だと思っているらしいですが)、それだけ激しい練習をしていると、やはり怪我人も出てしまいます。今回もチェシャ猫を踊る予定だったダンサーが直前になり怪我をしてしまいました。このチェシャ猫は全てのセプティムバレエの中でも1、2を争う難しいドゥエットがあり、いつもは経験豊富なベテランダンサーがこの役を踊っています。そんな中、今回チェシャ猫の代役に抜擢されたのは飛ぶ鳥を落とす勢いで成長中の神崎開です。神崎は現在コリフェ(ソリストとコールドバレエの間の階級)ですが、いつソリストに昇格されてもおかしくない逸材です。
今、神崎は一週間という短い間で超絶技巧のパートナリング技術をものにするため毎日吐きそうになりながら練習しています。ぜひ皆さんも神崎の応援に駆けつけてください。
そのほかの香港バレエ団ジャパニーズボーイズはそれぞれ物語の中で重要な役を担っていて、彼らなしには香港バレエそのものが成り立たなくなってしまうほどの貴重な戦力になっています。
彼らは普段すずしい顔をして踊っているのですが、今作では顔に引きつりが見える場面も。舞台上でさんざん飛び跳ねた後、20秒のうちに早着替えをして他の踊りに行くシーンでの、皆の早着替え技術は歌舞伎役者のそれのようです。(セプティムは日本の歌舞伎に影響を受けているそうで、演出のアイデアなどを参考にしているようです)
Dancer_ Wang Qingxin │ Creative_ Design Army │ Photography_ Ken Ngan
〈さいごに〉
僕がバレエを始めたのは、7歳の時にテレビで新国立劇場の柿落とし公演『眠れる森の美女』の放送を見たことがきっかけでした。その時踊っていたスーパースター熊川哲也氏に衝撃を受けた僕はすぐさまバレエ教室へ直行、いつの間にかバレエの虜になっていました。
この香港バレエ団のBallet Carnivalはより多くの子どもたちにバレエの魅力を伝えることが目的です。僕がそもそもなぜ香港に来たかというと、バレエという観るものの感情を揺さぶる総合芸術をしっかりとローカル、アジアのコミュニティに還元するという香港バレエ団のミッションに共鳴したからです。400年の時を経てヨーロッパの宮廷バレエから世界の共通言語となったバレエを体現していくカンパニーこそが香港バレエだと。時にはアヴァンギャルドな手法を使いながらコミットしていくスタイルはほかのバレエ団にはなかなか真似できません。
Hong Kong LEIの読者の皆様にも、僕らの信念を、舞台を通して共有できたらと思っています。
ぜひ、「Ballet Carnival for Kids: The Mad Hatter’s Tea Party」の舞台にお越しください。お待ちしております。
そして最後になりましたが、この度、高野陽年のコラムをHong Kong LEIにて連載させていただくことになりました。
第1回は旧正月明けを予定しています。ダンサーの目を通して香港のカオスな風景、街の香りを書いていきたいと思います。そちらの方もチェックしてくださいね。
Hong Kong Ballet
Ballet Carnival for Kids: The Mad Hatter’s Tea Party
期間:2025年1月25、26日 (土、日) 2:00 pm & 5:00 pm
場所:Tuen Mun Town Hall Auditorium
チケット購入: URBTIX(https://www.urbtix.hk/event-detail/12630/)
$280, $180, $100
フルタイム学生と高齢者は半額。
3歳以上の方がご覧いただけます。
公演時間は約1時間15分で途中休憩はありません。
高野陽年
立教大学中退後、2011年にロシアの名門ワガノワバレエアカデミーを卒業し、世界的振付家ナチョ・ドゥアトの指名を受け、外国人初の正団員としてロシア国立ミハイロフスキー劇場に入団。主にドゥアト作品で活躍した後、2014年に世界的バレリーナのニーナ・アナニアシヴィリに引き抜かれ、グルジア国立トビリシ・オペラ・バレエ劇場に移籍。ヨーロッパ、北米、日本を含めさまざまな劇場で主役を務めた。2021年より香港バレエ団に活動の拠点を移し、2024年には香港ダンス連盟より最優秀男性ダンサー賞を授与され、プリンシパルダンサーに昇格。さらに活躍の場を広げている。そして学園生活をとりもどすべく?イギリス公立オープン大学でビジネスマネージメントを専攻中。
Hong Kong LEI (ホンコン・レイ) は、香港の生活をもっと楽しくする女性や家族向けライフスタイルマガジンです。
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