2023/06/20

Tasting Table Japan Premium

「Hong Kong LEI – Cover Story」は、香港でがんばる人をご紹介するシリーズ企画です。当記事は、健康と食の安全をお届けする Tasting Table Japan Premium より当企画への賛同と協賛をいただき制作しています。



「人が好きだから、いつも笑顔で迎えたい」

 


(目次)

〈カフェのバリスタ兼スーパーバイザー〉

〈人に会うのが好きなんです〉

〈働くうえで大切にしていること〉

〈増田美裕さんに3つの質問〉


〈カフェのバリスタ兼スーパーバイザー〉

「いらっしゃいませ!わたしは増田美裕です」
カフェに入店したわたしたちが日本人だと分かると、カウンター越しにこぼれるような笑顔で自己紹介をしてくれた美裕さん。その笑顔に心が和らいだ。彼女は「Museum Café8」のスタッフだ。ここでは、中環フェリー8番埠頭に位置するルーフトップならではの開放的な眺めと、広く居心地の良い店内での飲食を楽しむことができる。

(写真左)Museum Café8の店内。大きな窓から光が差し込み、明るい空間だ。(右上)カフェからの眺め。(右下)カフェは中環フェリー8番埠頭の上階にある。

このカフェは、香港海事博物館と障害者自立支援組織「The Nesbitte Centre」が提携して同博物館のルーフトップに併設した、ビジネスで社会的問題の解決を目指す社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)だ。学習障害のあるスタッフを雇用し、彼らが能力を発揮しながら地域社会に溶け込むことを目的としている。
美裕さんは、このカフェに勤めて9年になる。フロアスタッフから始めて、今ではバリスタ兼スーパーバイザー。注文を受けて各種コーヒーをコーヒーマシンで作りながら、フロアスタッフたちの動きを見て指示を出す立場だ。店舗マネージャーのメロディさんも「Mihiroがいないとこのカフェは回らないですよ。有能で一生懸命、同僚に教える時も丁寧。彼女はベストスタッフの1人なの」と信頼を寄せている。

バリスタとしてコーヒーの注文を捌きながら、接客、インターンへの指導も行なっている。

スタッフはインターンも含めて31名。さまざまな支援施設から就業経験を積むために来るインターンのことを「生徒さん」と呼んでいる美裕さん。どんなスタンスで彼らを教えているのか聞いてみた。
「ジョークを言って遊び半分で教えます。笑いながらできるように。言う事を聞かない人もいるけど、そういう時は『頑張んなさいよ』と言います」
「良い上司ですね」と言うと、「うん、かわいがってる」と破顔微笑した。

 

〈人に会うのが好きなんです〉

美裕さんは、香港人の父と日本人の母の間に生まれ、香港で育った。3歳頃に、通っていた幼稚園から成長が遅いことなどを指摘され、トレーナーの元で平衡感覚の訓練や図形を書く練習などを開始。小・中学校では科目によっては1対1の特別支援を受けた。そして、高校へは進学せず、ボケーショナルセンターへ。このセンターは、さまざまな障害のあるメンバーが一緒に英語を学んだり、袋詰め作業を実践したりする場所で、美裕さんはここに4年間通った。その後、The Nesbitte Centreを通してカフェの求人を知り、自ら働くことを希望したという。「このカフェは、ビクトリアハーバーを見ながら仕事ができるから元気がでます。夜景もすごく綺麗で好きです」と美裕さんは窓の外に視線を向けた。

美裕さんが作ったリーフのラテアート。

Museum Café8では、スタッフになる際にカフェ運営に必要な職業トレーニングを受ける。美裕さんもすでにコーヒーマシンの使い方などはマスターしていたが、バリスタとしてもっと上手にコーヒーを淹れられるようになりたいと、コロナ規制が緩和されてから自主的に他所でコーヒートレーニングコースを受講した。
「フラットホワイト、カプチーノ、エスプレッソなど、コーヒーの淹れ方のレッスンはとっても楽しかったです。ラテアートのスワンやバラを描くのは難しいです。すぐ溢れちゃう。でもハートは大丈夫」とラテアートを作る手振りをしながら語った。美裕さんの淹れてくれたフラットホワイトは、コーヒーの味が引き立ち、オーツミルクも香ばしく、とてもおいしかった。

自己研鑽のために働きながらコーヒートレーニングコースに通い、修了した。

美裕さんは、日常的に3ヶ国語を使いこなしている。両親とは日本語で、父方の親戚とは広東語で話す環境で育ち、学校やボケーショナルセンターでも日本語や英語を学んだことで3ヶ国語を習得した。インタビュー時、わたしたちとは日本語で話し、「生徒さん」には広東語で指導、お客様とは英語で会話、といったふうに見事に3ヶ国語を使い分けていた。
一方で、人の言うことを瞬時に判断したり、とっさに返事をしたりすることができない場合や、チック症状があることで、美裕さんの状況を理解しない人から傷つく言葉をかけられることもあるという。しかしそれを、元来の人懐こさ、自分から話しかける積極性でカバーしてここまで来た。
美裕さんは「自分から人に話しかけるのが好き」と言う。
「人に会うのが好きなんです。カフェの仕事も好き。みんなと話すとたくさん勉強できるから」
また、一度来たお客様の顔や名前、注文した品も覚えられるそうだ。何度か来ているお客様の注文時に「いつものラテですか?」と言って、「それそれ!」と驚かれることもあると楽しそうに語った。

 

〈働くうえで大切にしていること〉

来年から、美裕さんはさらにステップアップすることになる。湾仔にあるSPCA(動物愛護協会)が青衣に新しいビルを建て、その中に社会的企業のカフェを設置する。美裕さんはそこでも勤務する予定だという。バリスタ兼スーパーバイザーとして中環と青衣の2拠点勤務だ。
働くうえで大切にしていることは? という質問に、「いつも笑顔で」と即答した。体調が良くない時でも笑顔でいることを意識しているという。仕事を始めた時に、母親から言われた「笑顔でやりなさいよ」という言葉が美裕さんの指針となった。
「コーヒーを作るのが楽しいし、『にこやかに仕事をしていていいね』とお客様に言われた時は嬉しかったです」
お客様が気持ち良く、おいしいコーヒーを飲めるように。スタッフが少しでも楽しく仕事をできるように。「和顔施(わがんせ:笑顔で人に接することが布施になるという意味の仏教用語)」という言葉があるが、美裕さんの笑顔はまさに周りの人への施しとなっている。


〈増田美裕さんに3つの質問〉

Q1 休日の過ごし方は?

YouTubeで日本のドラマを見ます。最近は木村拓哉さんが出てるドラマを見てます。SMAPが好きなんです。日本の漫画も好きで読みます。

 

Q2 他のお店のコーヒーを飲んだりしますか?

はい、Pokka caféのコーヒーがおいしいと思いました。人が淹れてくれるコーヒーはおいしく感じます。いつもは自分がコーヒーを淹れる側なので(笑)

 

Q3 SPCAのカフェに行くということですが、動物は好きですか?

大好き。前は犬を飼っていたし、今は猫を飼っています。まだ1歳半の子猫で、名前はさくら。SPCAに行くのが楽しみです。

 

コメントをありがとうございます。コメントは承認審査後に閲覧可能になります。少々お待ちください

4 件の意見

  • 匿名 より:

    Thank you for your comment! (From the editors)

  • theresaC Derrick より:

    very nice

  • Nozomi より:

    記事をお読みいただき、さっそくコメントをいただきまして誠にありがとうございます。コメントは美裕さんにもお伝えしました。どうもありがとうございました!(編集部より)

  • 匿名 より:

    みひろちゃんの笑顔が素敵です。大変なこともあると思いますが一つ一つ乗り越えて引き続き頑張ってください。こちらの記事をありがとうございました!

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